『アンチエイジング』と『食』、そして『睡眠』の関係を探って2023.05.10

「アンチエイジング」と「食」、そして「睡眠」の関係を探って

SLC鼎談
月刊SLC倶楽部2023年5月号でご紹介しきれなかった【SLC鼎談】の続きになります。
「月刊SLC倶楽部2023年5月号」はこちらからご覧いただけます。

アンチエイジングの鍵の1つ、
「糖化ストレス」について、さらに詳しく

SLC鼎談
佐藤:米井先生が鼎談の最初でおっしゃいましたように、近年は、「糖化ストレス」が健康やアンチエイジングの重要なキーワードになっています。

米井:はい。血糖値とは血中のブドウ糖(グルコース)の濃度を表します。99.9%以上は糖型構造ですが、一部はアルデヒド型構造として存在します。糖質を取り過ぎると、一部のアルデヒド型の糖がタンパク質と結びつき、体を構成するタンパク質の変性などで、AGE(終末糖化産物)という物質ができます。そして、AGEが蓄積すると、見た目の老化や、生活習慣病などを引き起こす、「糖化ストレス」につながってしまうんです。AGEを増やさないためには、食後高血糖を防ぐことが大事なのですが、それには、「朝食を抜いて、過度な空腹状態で昼食を取らない」「夕食を寝る直前に取らない」「よく噛む」「野菜から食べるベジタブルファーストを実践する」などが大切です。ちなみに、ベジタブルファーストのときは、オイルとビネガー(油と酢)を一緒に食べたほうが、血糖値が上がりにくいですよ。AGEの少ない食品の方が良いという人もいますが、食品の中には良いAGEもあるので、きちんとわけて考えることが大切です。良いAGEの代表はメラノジン、悪いAGEの代表はアクリルアミドです。

佐藤:弊社でも、米井先生などに協力いただき、カロリーや成分のほかに、良いAGEと悪いAGEの量をすべての商品に出していきたいと思っています。また、AGEをふまえた正しい食べ方や、食品の選び方なども、伝えていきたいですね。

白米より炊き込みごはんのほうが
実はAGEが少ない!

SLC鼎談
佐藤:意外にも、白米より炊き込みごはんのほうがAGEは少ないと聞きました。ただ、炊き込みごはんのほうがカロリーは高いので、炊き込みごはんを食べるなら、年齢もふまえて、どれくらいの量か適切か、あるいは白米を食べるなら、こんなAGEの少ないおかずを組み合わせるとよいなどという話を聞きました。また、ソース焼きそばより、弊社の上海焼きそばのような、野菜が多く入ったもののほうがAGEは少ないことや、AGEの多い食品を食べた翌日は、こんなAGEの少ない食品を取るとよい、ということ主張している方もいます。私たちは、さまざまな情報をわかりやすく提供していきたいと思っています。このあたりはいかがでしょうか?米井先生の考えを聞きたいです。

米井:管理栄養士の先生や医師の中に、このような主張があることは知っています。しかし、実際に食品中のAGEを測定した人はごくわずかです。私たちは食品中メラノジン量を測定した結果、味噌や醤油にはメラノイジンが多く含まれることを確認しました。良いAGEのメラノイジンは味と風味を良くする働きのほか、抗酸化作用、抗菌作用があります。かつて、悪いAGEのアクリルアミドは高温生成フライドポテトなどに検出されたことがありますが、現在では厳しく規制されています。肉や野菜でも焦げた部分にはアクリルアミドが含まれている可能性があるので要注意です。先ほどのお話に登場した「炊き込みごはん」の味と香り、色合いは良いAGEの影響です。情報はきちんと整理して示す必要があると思います。

西川:実は、米井先生との研究で、マットレスを合うものに変え、いい睡眠を取ったら、糖化ストレスが下がった、というデータもあるのですよ。おいしくて身体によいものを食べ、よい睡眠もとっていただき、糖化ストレスを防いでいただきたいですね。

寝具の改善で
腸内細菌も改善される!

SLC鼎談
米井:よい睡眠についていえば、西川さんとは、もう7年ほど、寝具と睡眠の関係を色々なテーマで共同研究しているのですが、「寝具の改善で、腸内細菌の状態も改善される」という今回の発見は、非常に新鮮でした。たまたま同じシステムで調べた、認知症の人とそうでない人の腸内細菌のデータがあり、それと比較して判明したのが、「寝具の改善で、睡眠の質が上がると、腸内細菌の様相が、認知症パターンから、正常な人のパターンに脱却する」ということです。食べ物だけでなく、寝具や睡眠で腸内細菌が変わるというのが画期的で、将来の認知症予防にも役立つと思いました。

佐藤:それは、具体的にはどんな経過、変化が起こっているのでしょうか?

米井:「腸脳連関」といって、脳から腸管に指令が行くだけでなく、腸管からも脳に情報や物質が届いています。そこには、気分に関わるものも多く含まれます。今回は、寝具の改善で、睡眠も改善され、心身リラックスでき、腸管と脳、相互によい情報が行き来したのではないかと……。ちなみに、腸内に善玉菌が増えると、短鎖脂肪酸というものを分泌するのですが、この短鎖脂肪酸は、代謝を上げたり、免疫力をアップしたり、脂肪の蓄積を防ぐなど、よい働きをたくさんしてくれます。人類、いえ、もっと遥か昔の生物の頃から、腸管内には、腸内細菌がずっといました。人類も80万年以上前の初期の段階から、自分に合った腸内細菌と共存し、生き残ってきました。我々は、1.5kgくらいの腸内細菌をずっと飼っているんですよ。それによって生かされてきたともいえます。

佐藤:腸内細菌を整えるには、食物繊維や発酵食品を多く取ることも大切ですよね。ところで西川社長、あらためて良質な睡眠を支える寝具について、ぜひお話をお伺いしたいのですが。

良質な睡眠を支える
よい寝具の条件とは?

SLC鼎談
西川:本当は「これさえあれば」というのがあればよいのですが、睡眠は非常に個性があり複雑なため、本当はその方の睡眠が取れにくい理由をお聞きして、本来持っている眠る力を引き出すというのが、寝具や睡眠環境を整える我々の仕事だと思っています。寝具でいえば、マットレスや枕の適切な硬さ、つまり身体にかかる力を分散し、けれど寝ている間の姿勢を崩さない、という、二律背反的な要素が必要になります。また、健常な方ですと、夜中に20~30回くらい寝返りをするので、寝返りしやすいことも大切です。こういう色々なものを組み合わせて、個性に合う、お一人ひとりにフィットするものを提供するのが我々の使命です。

寝具や食で
アスリートもサポート

SLC鼎談
西川:少し余談になりますが、野球の大谷翔平選手や、サッカーの日本代表選手にも、マットレスや枕を提供して眠りをサポートしているんですよ。中3日とか4日で調整しないといけないので、なるべくいい眠りをとって、リカバリーをして、よいコンディションで試合に臨んでほしいと思います。

佐藤:そうでしたか、実は我々も、フェンシングや陸上のアスリートを食でサポートしているんです。競技により、必要とされる栄養素も違うので、そのあたりもきめ細やかに対応できるようにしています。

自律神経を休めるため、その材料は食。
寝室の環境や寝間着も大事

西川:また、よい睡眠のためには、日中の生活に、ストレスをはじめ、眠りを阻害する要因がないこと、温度、湿度、光、音、香りなどの寝室の環境、さらに、寝間着なども大事です。それらが大事なのは、睡眠中に自律神経を休ませるためです。たとえば寝間着でいえば、夏、暑いからと、Tシャツと短パンで、クーラーをつけて寝たとします。すると、クーラーの風が当たる肩口はスースーしますが、マットレスに接している体は暑く、汗をかいたり、寝返りを打ったりすることで、体温を下げようとする。そうすると、自律神経は、肩と体のどちらに合わせたらいいのか迷って休めないのです。なので、夏、クーラーをつけて寝るなら、薄い布団をかけていただくか、少なくとも、上下袖まであるパジャマを着て寝ることがおすすめです。また、寝る前は、灯りや音を少し落としていく。そうして、自律神経を休むモード、つまり、自律神経の2種類、交感神経と副交感神経のうち、休むモードの副交感神経のほうに、切り替えることが大切です。

体内時計と自転周期を合わせ、
ベストチューニング

SLC鼎談
米井:今、食と睡眠、両方の研究をやっていますが、2つを合わせ、何か統一理論を考えなくてはいけないと思っています。すると、体内時計と、24時間、自転周期を合わせることが、人間にとって、ベストフィッティング、ベストチューニングなのではないかという案があります。食事も睡眠もそれに合わせることで、免疫や神経の状態、すべてがよくなるのでは、と。そのためにどうしたらいいかというと、まず「朝、光を浴びる」「朝食を食べて“適度に”血糖値を上げる」「朝、しっかりたんぱく質を取る」「夜は食べてすぐ寝ず、腸管を休める」などがあげられます。1サイクルは、年齢など個人差はありますが、大体90分です。睡眠時間は、最低でも4サイクル(約6時間)、できれば5サイクル(約7時間半)がよいかと。子供はもう少し長いほうがよいのですが。私もよほど疲れたときは5サイクルになりますが、とりあえず忙しくても、最低4サイクルを目標に暮らしています。

ノンレム睡眠とレム睡眠の
違いを知る

SLC鼎談
西川:睡眠は、まずノンレム睡眠から入り、レム睡眠に入ります。そしてレム睡眠が終了するまでが、1サイクル。人によって変わりますが、大体90分です。ノンレム睡眠は、脳も体も動かず、一般的には深い睡眠と言われています。本当は、正確には、深さというとまた役割が違うのですが、ある意味、完全に休んでいる状態です。一方、レム睡眠は、頭の整理の時間。その日1日見たり聞いたりした情報を、捨てる、残す、捨てる、残す、を繰り返して、さらに、それと昔の情報を組み合わせようとする時間です。このときに割と夢を見やすいと言われています。頭は起きているときより早く回っているとも言われており、ラピッドアイと言って、目も早く動きます。そういうときは、脳がものすごく高速回転しているエンジンのような感じで、体とつなげると、体が暴れてしまうこともあるので、首のところで、頭と体がつながらないよう、クラッチみたいに切り離すシステムがあるんです。たまたまくっついてしまうと、体がびくっと動いたり、逆に目だけ覚めてしまうと、体が動かなくて、金縛りみたいになったりすることがあるのですが。

睡眠と食の両方で
真のアンチエイジングを

SLC鼎談
西川:弊社では、約40年前の1984年に日本睡眠科学研究所を設立しました。医療機関やアカデミアとの協力、お客様からの声のフィードバック、また最近では1万人のお客様にアンケートを取るなどして、睡眠を科学的に研究し、皆さまのよい眠りに貢献できればと思っています。また最近、米井先生と仕事をしながら教えていただいたのですが、アンチエイジングというと、見た目も含め、若返りというイメージを持っていたのですが、本来は細胞がだんだんと老化してくるのは当たり前で、異常な老化にさせない、というのがコンセプトなのだそうです。

米井:そうです。“アンチ病的エイジング”が大切なのです。正常に、ゆるやかに下がっていくならよいのです。何か病気や衰えがあって、ガクンガクンと落ちていくことを防ぐのが、我々の学問のテーマです。ちなみに、アンチエイジングにとって、睡眠は非常に重要なポイントですが、睡眠の質が悪くなったときに、症状の出方は、人それぞれですね。糖代謝が悪くなるとか、更年期障害の弊害が強まるとか。その人の弱点が出る傾向があります。逆に言えば、睡眠の質をよくすると、そういう症状が改善しますね。更年期障害も、ホルモン分泌自体というより、更年期障害によるストレスを緩和することで、少しでも楽になるお手伝いができると思います。

佐藤:食も睡眠も、どちらかだけではだめで、やはり両方よいものをとることで、先ほど米井先生がおっしゃった、適切なエイジングがよいと思います。つまり、最適な状態で歳を重ね、健康寿命をまっとうできたらよいのではないでしょうか。今やろうとしているのは、食と睡眠のどちらも大事ということ知っていただくこと、そして1人でも多くの方がそれにより健康になっていただくことです。今後もぜひ有意義な情報を皆さまにお伝えしていきたいと思っています。(敬称略)

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